評価はわかれるところだろうけど、個人的には市川崑・横溝正史・石坂浩二トリオの最高傑作だと思ってる(僕が岸恵子さんこそアレだと盲信してるのもあるが(笑))。
若山富三郎さん扮する閑職刑事が、なんともいえずいい距離感で絡むので、実際その場に金田一は存在してるのかな?磯川警部しかおらず、金田一は磯川警部の幻の産物じゃないかな?くらいの妄想までも楽しめる。その位に金田一がバイプレイヤーで市川流のセットの如き役割。
「蒼天航路」というコミックをご存知の方は、あれの孔明を想像してもらうといいかも。
金田一という特殊なキャスティングは、横溝だけでも成り立たなかったし、市川崑に命を吹き込まれた稀代のストーリーテラーでもある。最後のカタルシスの崩壊も他の市川・横溝とくらべても、尋常じゃない程のものがある。
この映画の見せ場は、個人的に二つあり、一つは由良の老婆(村の長老)が毬をつきながら子守唄のような童謡を歌うシーンと、ベタだが仁禮のててなし児(父親が不明)の殺害現場。これは子供心にかなりトラウマティックな描写となっていて、市川崑の美意識の粋の様なイメージ。とにかく息を飲むように美しい葡萄酒の樽に浸かっている美女の亡骸、鮮烈にして強烈だ。犬神家の足や菊人形の生首と共に語り草になっているが、後者よりもより埃っぽくより匂いがあるシーン。
映画で重要なのは、実はその匂い(香り)だと思う。市川の映画は土地の風景などは重要視せず、終始屋内のシーンが全体の7割を占める。外は移動やアリバイで金田一が走りまわる程度で、あとはまるでアニメーションのコマ割りのように点々と人の表情やらをフォーカスする。
そこから、むせ返る程の匂いが漂ってくる。田舎の本家の蔵の埃やすえた匂い、親戚の着物のショウノウの匂い、おばさんの椿油の香り、世話のババアが飯を炊く匂い等々画面から匂いがたちこめてくる。
で、金田一のフケ、ズボラなんだけど、この人の観察眼はあらゆるものを透かす。人の仕種、呉服の裁き、利き手、そういうところを気にしながら観ると金田一になったような気になる。フケが必ず金田一から観た視点だからね。
そして外せないのが、「岸恵子」、その後浅見光彦シリーズの映画にも出ていたけれど、女優でこの人ほど真犯人の迫力がある女優さんはいないと思ってる。もうこの人じゃん(笑)とわかっていても観てしまう(笑)。キャスティングされた時点でいきなりネタバレなんだが(笑)、それでも「意外と…」とかもあり、そういうのもひっくるめてミステリーなんであって、ミステリーだといきなり冒頭で犯人がわかるパターンもあるので、それは特に重要な要素ではないとも思う。だからこの映画はいまだにファンが多い。
観たことない人はどうぞ、好きな人は「もっともっと」とはまると思われます。